みなさんこんにちは!日本逆子治療協会の玉井です。以前にこのような質問を頂きました。こんな疑問にお答えします。
とてもナイーブで繊細な内容なので色々な角度から価値観をお伝えしています。読む際は最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
外回転術を希望するのはエゴではない
最初にお伝えしたいのは【僕が外回転術を勧めることはないけど、外回転術を希望するのはエゴではない】と僕は思うということです。その理由は帝王切開を避けようとするのはエゴ(身勝手なこと / 自己中心的)ではないからです。
外回転術に対して同じように感じる妊婦さんは多くいます。そう思う理由は「帝王切開でも安全に産めるのにリスクのある外回転術をして、帝王切開を避けたいと思う私は胎児のことを考えない身勝手な人なのか?」と感じる心理が働くからです。
今回は胎児のことを思っているから、僕に質問をするほど思い悩んでいます。悩むのは胎児のことを思っているからで、それをエゴ(身勝手なこと)とは思いません。
昔の哲学者が「愛とは苦悩」だと言っていた気がします。悩むのは愛があるからです。
例えば、旅行先でお土産を買うとき。職場の人のお土産は悩みまないはずです。なぜなら、安くて量が多いものを選べばいいだけだから。ですが、家族やパートナーに買うお土産は「何をしたら喜んでもらえるだろうか?」と悩むはずです。
悩むのは愛があるからであり、そこに胎児への愛をとても感じます。そこに愛はあるんか?と言うCMがありますが、質問をいただいただけでしっかりと愛を感じます。
心理学を学べばわかりますが、人の心理はエゴの塊です。自分の理想ばかりを追い求めるものです。それなのに、自分の経膣分娩をしたいと言う理想と現実の中で胎児のことを思い悩む気持ちはとても素敵なものだと思います。
と気持ちの面をお伝えさせていただきました。ここからは科学や統計も含めてお話しします。
帝王切開と経膣分娩のリスク
「帝王切開でも安全に産めるのにリスクのある外回転術をして、帝王切開を避けたいと思う私は胎児のことを考えない身勝手な人なのか?」と感じる心理が働くのは『帝王切開は安全でリスクはない』という前提のもとに生まれる概念かと思います。
ですが、帝王切開にリスクはあります。経膣分娩と帝王切開のリスクを比べると、経膣分娩の方がリスクは低いです。特に帝王切開は母体の体調への影響が強くあります。
なので、経膣分娩と帝王切開はどちらがリスクが低いのかを比べる議論をすれば『経膣分娩の方がいい』という人が多いです。こんな理由で出産に対するリスクをなるべく低くすることという側面で言えば、それがエゴ(身勝手なこと)だとは思いません。
なぜ逆子の場合は帝王切開を避けないのか
経膣分娩ができるならその方がいいとされているのに、逆子の場合は逆子の場合は『帝王切開でもしょうがない』とされる傾向があります。その理由は大きく3つあります。
- 帝王切開は骨盤位分娩に比べて比較的安全に出産をできるから
- 外回転術にはリスクがあるから
- 逆子を治す方法を知らないから
それぞれ詳しくお伝えします。
帝王切開は骨盤位分娩に比べて比較的安全に出産をできるから
帝王切開はとても素晴らしい医療です。技術がなくても安全に手術できます。ですが、骨盤位分娩は技術が必要です。
以前は骨盤位でも経膣分娩を試みる先生は多かったみたいですが、今ではほとんどいません。
帝王切開があるのにも関わらず経膣分娩を試みる先生がいた理由は、その先生が経膣分娩の方がいいと考えていて骨盤位の経膣分娩をできる自信があったからです。帝王切開と骨盤位分娩の選択をできる先生は、骨盤位分娩を試みる傾向があるかなと思います。(色々な助産師さんの話を聞いていて僕はそう感じています。)
技術があれば比較的安全に出産ができたようですが、技術がないとリスクは高くなります。なので、骨盤位で経膣分娩をする技術が衰退した現代では多くの先生が帝王切開を勧める現状になっています。
外回転術はリスクがあるから
外回転術はリスクがあります。母体にも胎児にも命の危険に関わることが起きるリスクがあります。
詳しくは次の章でお話ししますが、外回転術にはリスクがあるし、経膣分娩に比べてリスクがあるとはいえ帝王切開でも出産ができることから『帝王切開で産めるのにリスクがあることをしなくても』ということから逆子のままでもいいとされるのが現状です。
逆子を治す方法を知らないから
逆子を治りやすくする方法は外回転術だけでなく色々とあります。
もっとも有名なのはお灸です。お灸をすることで逆子の回転率は統計的に有意差が出るほど効果があり、多くの研究で発表されています。お灸は東洋医学で非科学的のイメージが強くありますが、現代ではしっかりと研究されていて科学で説明することができるようになりました。
それでも『東洋医学は非科学』というイメージから、産科ではあまりお灸は指導されません。なので、お灸のメカニズムを知らない人がほとんどです。僕は外回転術をする前にお灸を試してみるのがいいと思います。お灸はリスクがないとされています。
逆子の場合は帝王切開でもしょうがない
つまり、骨盤位での経膣分娩をするよりも帝王切開の方が安全なのが現状で、経膣分娩がいいとされつつも逆子のままでも出産をできることから外回転術をする必要がなく、逆子を治す方法はあるけどそれを知らない人が多いから、『逆子の場合は帝王切開でもしょうがない』とされているということです。
そういった価値観が前提にあることで【逆子の場合は帝王切開でもいいのにリスクがある外回転術をする必要はない。少しでもリスクのあることをするのは親のエゴだ。】という価値観が生まれてしまうのかなと僕は考えています。
これも出産に対するリスクをなるべく低くすることという側面のひとつです。
外回転術のリスク
外回転術にはリスクがあります。これがエゴだと思う1番の理由だと思います。リスクが高いのになぜするのか?胎児のことを考えていないんじゃないか?とリスクのあることをすることがエゴと感じる人もいるかもしれません。
ですが、僕は違う印象があり外回転術は必ずしもハイリスクではないと感じています。その理由は先生によって回転率が違うからです。外回転術をして起こりうることは大きく4つあります。
- 回転し頭位になる
- 回転しない
- 母体か胎児の体調の変化などの理由により中止
- 緊急の帝王切開
僕が施術をしている地域には外回転術をする病院が3つあります。大きな総合病院、大学病院、地域の個人で経営する産科の3つです。僕が良く紹介するところでは、紹介した多くは回転していて、中止になることも少ないです。
ですが、あるところではほとんどが帝王切開になるそうです。
これはある助産師さんに聞いた話です。外回転術をするところへ勤めている助産師さんが来院した際に自分のところで外回転術ができるのにしない理由を尋ねたことがあります。そうしたら「自分のところではほとんどが緊急の帝王切開になるから怖い」と言っていました。
こんな理由から骨盤位分娩と同じで、先生の技術の差が出るんじゃないかなと思います。
僕が言いたいことは、外回転術にはリスクがつきものだけど必ずしも危ないわけではないということです。帝王切開も経膣分娩も同じで全くリスクがないわけではありません。ですが、帝王切開も経膣分娩も出産には必要で、外回転術はしなくてもいいものでリスクを伴うものということは考えるべきことかなと思います。
僕のところへ逆子ケアに来院した妊婦さんの中には鍼灸では回転が難しい人もいます。その場合で妊婦さんが外回転術を望む場合は回転率が高いところを紹介しています。一般的には紹介することもしないことが多いですが、僕は妊婦さんが希望する場合は紹介するようにしています。
最後にその理由をお話しします。
外回転術を紹介する理由
僕が外回転術を希望する妊婦さんに回転率の高い産科を紹介する理由は、妊婦さんが後悔しないためです。なぜなら、産後に逆子に対して後悔やわだかまりを感じる女性が多いからです。
- 逆子体操が辛いと続けた日々はなんだったのか。
- 逆子だからと毎日泣きながら過ごしたけど、もっと楽しく過ごせばよかった。
- 外回転術をしてみればよかった。
逆子で産んだことがない人からは「もう終わったことじゃん」という人もいます。そう感じるのは人間の心理だと思いますが、それは人の心理を理解していません。
人が後悔したりわだかまりを感じるのは『終わったから』です。これから始まる未来に対して後悔する人はいません。
そしてその後悔はずっと続きます。僕が逆子の講座に参加いただく女性には、逆子で出産をした経験のある人がいます。その中には出産は何年も前のことなのにいまだに色々と思うことやわだかまりを感じている人が多くいます。
出産は女性の人生に大きく影響します。そして、それは終わってからも続きます。妊娠生活や出産は特別なものだからこそ、みなさん理想があります。その理想の通りに行く人はほぼいません。それだけ妊娠や出産は大変なものだからです。その理想と現実のギャップに妊娠中や産後に悩みます。
現代では帝王切開でも構わないと言う人も増えていますが、出産方法は経膣分娩を願う人も多くいます。そう願うのは決して悪いことではないと思います。もし帝王切開の理由が胎児の体調や母体の体調に関わるものであれば納得できていると思います。それが病気ではない逆子だと「なぜ病気でもないのに、、」と思うことも人の心理です。
外回転術を試さなかったと後で悩まないためには試してみるしかありません。この選択を奪われると後で後悔しやすくなります。
後で『外回転術をやらなかった』と思うのと『できなかった』と思うのでは後悔やわだかまりに天と地ほど差が出ます。自分で選択をできたと思えればやらなかったと思えますが、選択をできなかったと思うと後悔やわだかまりを感じます。
僕はその選択を奪わず、外回転術のリスクをしっかりと説明した上でその人に選択をしてもらうことが重要かなと思います。
さいごに
はっきりとお伝えしたいことは僕は外回転術を勧めません。今までに勧めたことは1回もありません。なぜなら、僕も他の医療従事者と同じで『母子ともに無事に出産を終えることが1番』と思っているからです。そのためには少しでもリスクが低い方がいいかなと思います。
今回の内容は外回転術を勧めるような内容ともとれる内容をお伝えしましたが、外回転術を勧めたいわけではありません。僕がエゴではないと思う理由をお伝えしました。
もし腕のいい先生がいれば相談の上受けてみてもいいと思いますが、腕のいい先生かどうかはわかりません。回転率が悪くても上手く嘘がないように広告して集客をするのがビジネスだからです。キャッチコピーだけじゃ本当の技術は見えません。
出産は女性にとって人生におけるとても大切な時間になります。その出産が終わった後で良かったと思える出産であることが1番かなと思います。そのためにはリスクを理解した上で自分で選択をすることが大切かと思います。
この文章を読んだ医療従事者からは「こんな無責任なことを言うな!」と言う人もいると思います。ただ、別の角度から言えば「出産に対して色々と悩む人に寄り添っていない」「産めればいいからと説明をしないのも無責任」とも言えます。
こうしてひとりひとりの悩みに真摯に向き合うことができれば「やっぱりしなくてもいいかな」と思う人も出てきます。外回転術をしたいと思う自分は悪いのか?と1人で悩むことで不安になり誰も共感してもらえないことから辛いと言う側面もあるからです。
共感されることで気が済む場合もあります。
そんな心理的側面もあり、僕は逆子に悩む人にひとりひとり寄り添い、外回転術については僕の知る全てを説明した上で後悔のない選択をしてもらえたらと思っています。
とても繊細な内容で、僕の稚拙な文章で僕の気持ちの全てが伝わらず語弊を生んでしまう部分が多くあるかもしれません。悩む妊婦さんにも、大変な思いをしている妊婦さんにたくさん関わる医療従事者にも、愛を持って記しているその気持ちが伝わると嬉しいです。